チャオ・ベトナム No.33
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発行者:ジャパ・ベトナム事務局 発行日:2007年4月20日
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古川 栄美 |
去年の夏、ベトナムでガイドをしてくれた“チク”さん(ジャパベトナムの視察旅行ではありません。個人旅行です)。口癖は、「明日は死んじゃうかもしれないんだから、今日楽しんでおかないとね…」といかにもベトナムチックな思想を持つ、気ままな38歳独身。ちょうど車がベトドク病院の前を過ぎたとき、当時話題だったドクちゃん婚約の話にチクさんの一言。「ドクちゃん、病院から刑務所行きかぁ…」はぁ?? 何のことやらと思っていたら、チクさんの結婚した友人はみんな口を揃えて、結婚は“奥さん”という刑務官に監視された刑務所に入所したようなものだ、と言うらしい。ははぁん、だからチクさんは独り者なのねぇ。
ベトナムには「Nhat vo nhi Troi」という言葉がある。日本の「地震・雷・火事・親父」ではないけれど、「一番は奥さん、二番が神様」奥さんは神様より強くて偉い。確かにベトナムの女性は強い。大勢の人がいる中で、奥さんにまくし立てられている男性の姿、見たことあります。観光地でお客の取り合いが、女同士のつかみ合いバトルに発展してしまった現場も目撃しました。それもこれも、なかなか日本では見ない光景ではあるけれど、強い分だけベトナムの女性はとても働き者。市場でも、道端でも、お店でも、働く姿は女性ばかりが目に付くと言っても過言ではない。シクロのおじちゃんはその日の気分で働くのか、木陰で昼寝していたり、道端で井戸端お茶会議しているのも男性。これでは女性に主導権があるのも当然か… ところが実情はそうでもないらしい。外でもたくさん働いて、家の事も一生懸命こなさないと嫁としては認めてもらえない。結婚しても苗字が変わらないのは、嫁はよそ者という考えが根強いからだそうだ。子供は父親の姓を継ぎ、母親の姓を継ぐことは決してない。子供のミドルネームにこっそり母方の姓を忍ばせるケースもあるけれど。サイゴン在住で私のベトナム語の先生をしているベトナム人男性も、家庭の中での最終的な決定権は男性にある、と言っていた。こうなると、もしかしたら日本の奥さんのほうが強いのかもしれない。
数年前までベトナムには「子供は多くて2人まで」という国のお達しがあった。私が持っている外国人用のベトナム語テキストに「どの家族も二人の子供を持つべきだ」という構文があるくらい。私は少子化問題を抱える日本人の感覚でそのテキストの文を読んだため、一人っ子ではなく兄弟のいる家庭であるべきだ、という意味で捉えていたら、先生に間違いを指摘されてしまった。一人っ子、もしくは二人まで。違反したら公務員は減給・降格。農民は違反納税を支払わなければならない。3人目からは出産費用も高くなるらしく、3人目が生まれると300万円のお祝い金をくれる会社が出現した日本とは大違いである。今では強制力はなくなったというけれど、少子を奨励していることに変わりはない。死活問題でもある結果、妊娠可能な年齢の女性の3人に1人は中絶経験者だというデーターもある。何とも考え難い、悲しい数字である。決して衛生的ではない病院での中絶。しかも繰り返し受ける人も多いという。そんな事実からも、避妊の段階から女性に主導権がなく、体と心に負担がかかりながらも泣く泣く堕胎を繰り返す女性の弱い立場が見えてくる。
私は現在、サイゴンに暮らす6歳の女の子の里親をしている。彼女は実父とは死別し、母親が天秤かついで麺を売り、その日食べるためのお金を稼ぐという貧しい状況にあって、小学校入学の年齢になった去年、私の送金する奨学金で公立小学校に通う予定だった。 |
結局、里子はNGOが行っている無料の教室で授業を受けることになった。事務局のスタッフから、とても楽しそうに、元気に毎日センターに通ってきますよ、と報告が来る。しかし私は近いうちに彼女が公立学校に転入できる日が来ることを望んでいる。そして女の子であるが故に年頃になったとき、体を売ってお金を稼ぐことのないようにと願ってやまない。
隣国カンボジアの置屋には人身売買の組織から売られてやってきたベトナムの女の子がたくさんいるという。また、カンボジアだけでなくタイ、シンガポール、果てはアメリカにまで売られていく場合もある。跡継ぎの男の子は重宝され、女の子は口減らしで売られる。経済発展華々しいベトナムに、いや、だからこそ貧富の格差が生まれ、このような現実も生まれてしまう。強そうに見える女性の姿とは裏腹に、女性であるが故に背負わねばならない厳しく悲しい現実がある。観光地としてのベトナムではなく、ベトナムに暮らす人々の目線で考え、交わろうとするときに、私たちには何が出来るのか、何をすべきなのか、時にかなりの難問を突きつけられる。 最近では豊かな家庭に育った女性は高学歴になり、ビジネスにおいて男性と対等な立場で働くことを望み、そして実際にそのような生き方をする女性も増えている。ただ、まだまだその地位は確立されていない。しかしながら、元来ベトナムの女性が持っているその強さが大きな原動力、起爆剤となって、ベトナム社会をよりよい方向に動かしていってくれるのではないかと期待している。
「An com Tau, o nha Tay, lay vo Nhat」中国の料理を食し、西洋風の家に住み、日本人女性を妻にする。これはベトナム男性の理想。ベトナムの男性は、日本の女性はおしんのように辛抱強く、素直で従順であるという“妄想”があるらしい。だから日本人の嫁が欲しいと。う~ん…そうかぁ…日本の旦那衆が新橋の立ち食い蕎麦屋で安い昼食をとっているとき、奥様方が恵比寿ガーデンプレイスのリッチなランチを友人と楽しんでいるっていう現実は、知らないほうがいいかな。しかも旦那さんの稼ぎで…。ついでにこの4月の法律の改定を待って、年金を半分手に入れられるようになってから熟年離婚をしようと密かに計算している女性がたくさんいることも…。 |
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